日本の腕時計メーカー

昨日取り上げた本の話の続きです。233ページに、時計製造グループの世界シェアランキング(2012年版)があって、1位はスウォッチグループ、2位はカルティエ擁するリシュモン、3位がロレックスとなってます。このスイス勢3グループだけで市場シェアは45.8%。ほぼ半分。それに対して、我らがシチズン、セイコーはどうかというと、それぞれ6位と7位で、シェアは合計して7.3%。だいぶ差がありますな。

シチズンとセイコーはこの事態にどう対応しているのでしょうか。ここからはつらつら思ったことを書きますよ。まず、両社ともエレクトロニクスや精密機械の分野で事業の多角化ができているので、スイス勢のように全生命が時計の売れ行きにかかっているという状況ではないと思います。だから、じっくり対処しているのかもしれません。そして、なぜ時計を作るのか、という根本的な意味を整理している過程なんじゃないですかね。

セイコーのクレドールを見ると人の手から生まれる「技」へのこだわりが見て取れます。技術は十分だから、少し立ち返って技を見直してるって感じでしょうか。シチズンはもう少しアート寄りかな。カンパノラシリーズからは時計をメディアとするメディアアート的な香りがします。ちょうど今、シチズンがミラノサローネで展示したインスタレーションが青山で凱旋展示されてますけど、それを見て、技術的な価値を非技術的に伝えようとする取り組みと捉えました。

スイスブランドがよくやるような、過去のデザインアーカイブを再利用して、そこにレジェンドを付け加えるマーケティング手法ではなく、正面からアイデンティティーを作りにいってる印象。両社とも60年代以前のデザインを再利用する手法はもっとやっていいんじゃないかとも思うんですが、その方向ではスイス勢には勝てない気がするので、正攻法がいいんでしょうね。あ、セイコーのジウジアーロ復刻モデルは欲しいです。このくらいの再利用が適切なのかも。

両社ともスイスブランドの手法や資源を無視してるわけじゃないと思います。シチズンはLa Joux-Perretを買収して、スイス流の機械式ムーブメントを利用できる体制を作りました。セイコーはニューヨーク・マディソン街に旗艦店を作ったり、ブランドアンバサダーにジョコビッチを起用したりと(最近対戦相手として注目される錦織選手がタグホイヤーというのは少し皮肉だけど)、スイスブランドの常套的マーケティング手法も使ってますね。取り入れられるところは取り入れて、従来のビジネスとマージを図ってるってことかな。

さて、スイス勢圧勝の情勢下で日本勢はじっくりブランド再構築を図っている過程、という状況分析がOKとすると、この先潮目が変わる日は来るのでしょうか? という問いかけに脳内問答は進んでいくわけです。ここで本当なら「スマートウオッチで大きく変わります!」と言いたいところなんですけど、そこまでスパッとは言い切れないというか「見えたぞ!」って感じはないです。

なんだかんだで、Apple Watchは短期間のうちにiPhone6ユーザーの15%くらいが持つようになるんじゃないかと思ってます。そうすると1000万台は超えますよね? Android Wearも同程度までいくんじゃないかな。根拠のない予想ですけど、そんな気がします。あ、今日、SONY SmartWatch3を注文しました。Zenfoneを買ったときにZenwatchも一緒に注文しようかと考えたんですけど、SW3のほうが良いと判断しました。その理由は……この話題はまた今度にしましょうね。話を戻すと、Apple WatchとAndroid Wearが2000万台くらい市場に出ると、そこに新しいマーケットが生じると思います。ただ、それが既存の時計マーケットとどう関係するかは想像しにくいですな。腕時計の生産数って日本だけでも年間6000万個、中国は月に1000万個作ってるらしいです。スイスは高単価路線だから個数は少ないけど、それでも年間3000万個くらい。つまりスマートウオッチとは桁が違う。今まで時計を作ったり売ったりしてた人たちからするとスマートウオッチは小さい世界。カシオの人がApple Watchについて言及してるインタビューがあって、やはりスマートウオッチと腕時計のマーケットは当面混じり合わないという読みでした。発売までにAppleが「なにかすごいものを用意してくるかもしれないから分からないけど」と不安げな(?)様子も見られたりしますが……。

例によって結論には到達せずつらつら書いてますけども、すごく長くなっちゃったので、今日はこのあたりでおしまいにします。そういや、日本勢としてシチズンとセイコーにしか触れませんでしたね。カシオもシェア2.1%の9位で大事なプレイヤーです。ワタクシだって、機械式がないからとカシオの時計を無視してるわけじゃありません。G-Shock、G-Shock mini、Babe Gと3系統を使いくらべたりしてます。そして究極の腕時計はカシオの1000円デジタルだと思ってます。ある意味、カシオ計算機という会社が腕時計の世界の終末を作りだし、その結果、カシオを含む全員が存在価値の再構築を余儀なくされたと見ることもできますよね。いや、言い過ぎかも。ぐふふ。続きはまたこんど。