好きな時計の傾向

gruen

自分が魅力を感じる時計の傾向がようやく見えてきた昨今です。方向は2つ。

ひとつは「古き良きアメリカ」。Hamilton、Waltham、Gruenといった、アメリカで興ったメーカーの時計に強く惹かれます。19世紀末から20世紀前半のアメリカで作られた精密機械をいじっていると、これが近代か、という感覚が湧いてきます。

もうひとつは、機械式時計が完成形に到達した1960年代に活躍し、その後の産業構造の変化や電子化によって衰退消滅したメーカーが残した時計に惹かれます。たとえば、Universal Geneveが好き。技術力とデザイン力が伝わってきます。でも、それだけでは会社が生き残ることはできなかったんですね。なぜでしょう? 分解しながらそういうことを考えていると、時間がどんどん過ぎていきます。

2つの方向と言いましたが、多くの場合、特にUSブランドについては、上記の2つは連続してますな。

Hamiltonのように、買収によって現在もブランドが残存している例があります。売買収が盛んに行われてきた業界のようで、一度は消えた名前が復活することも普通みたい。IWCのビンテージを「オールド・インター」と呼ぶように、新旧の体制を区別しながらも共存させている市場ですね。時計雑誌をめくっていてよく見かけるのは「復刻」。オマージュとかヘリテージといったキーワードがよく出てくる。きっとそれは良いデザインの見本なのでしょうが、ワタクシ的にはピンとこないです。もともと時計に興味がなかったからかな。復刻モデルを買うくらいならスマートウオッチのほうが面白いと思っちゃう。

100年前のものであれ、今のものであれ、その時代の技術と人々の欲求を反映して現れたかたちを知りたいです。

上の写真の時計は、1200円で落札し、ざっとレストアしたGruen。ケースとムーブメントの刻印から1950年にシンシナティで作られたことが推測できます。腕にフィットする大きく湾曲したケース、きらびやかなフェイス、小さいのに高精度なムーブメントといった特徴が支持されて、1930年代から40年代にかけて一世を風靡したメンズウオッチですな。キズは多いものの、10K金張りのケースは当時の勢いを感じさせます。ただし、50年製造のこの時計は同社のピークが過ぎた後の製品かもしれません。Wikipediaによると、53年に創業家は同社を売却し、58年には工場も解体売却されてしまいました。

アメリカの時計産業が第2次世界大戦を境に衰退した理由は産業史の題材のひとつとして論じられています。ワタクシが理解した範囲では、大戦中に各社が軍事生産にシフトした影響で戦後の需要にうまく対応できず、やはり軍需を失ったスイス勢の流入によって市場を失い、多くが欧州資本に買収されていったという流れのようです。現在はSwatchグループの一部であるHamiltonが代表例ですな。

他の機械産業と同様に、各国の時計メーカーは大戦の影響を強く受けています。それゆえ、大戦期の製品はとても興味深いんです。現物を入手して触ってみたいという気持ちを抑えるのが大変。アメリカって国はその頃の機械がいいコンディションで売買されてたりするんですよね。先日はebayでHamiltonのコクピットクロックを発見しました。F4Uコルセアに搭載された37500という機種です(そのレストア記事)。買おうと思えば買える価格だったのに、競り合いのタイミングが合わず逃してしまいました。ちょっと後悔。

あれれ、今日は普段より少し長く書いてる。冷房の効いている部屋で時計のことを考えていると平和です。でも続きはまたこんど。

※追記
近頃自覚した興味の方向について書きましたが、古い腕時計を直してみたいという初期衝動のままにいじっているのは、今でもセイコーとシチズンが主です。気に入って使っている時計は、スマートウオッチを除くと、両社の60〜70年代製品が中心です。イタリアンやフレンチのお店に行くのが好きだけど、普段はやっぱりご飯と味噌汁、というような話ですかね。ちょっと違うか……。