Tom Igoeさんのブログのエントリーをざっと訳してみました(途中しんどくなって、かいつまんだ部分があります)。内容は、中国の山寨(NikkeiBP)とオープンソースハードウエアの話。
※CCで公開されてますので、ここから下もCC(by-nc-sa)です。
『山寨とオープンファブリケーションについての軽い思索』
Tom Igoe
“Strategy & Business”に載った、「山寨」に関する記事が興味深かった。このような比較的バランスの取れた記事をみるのは、米国では初めてだ。エレクトロニクスビジネスの現場で生じているトレンドを知るのに役立つ。
私がはじめて山寨のことを知ったのは、PCI InternationalとBunnie Huangが主催した深川ツアーにおいてだ。山寨メーカーに対するアメリカ国内での一般的な見方は、チープなコピー商品(knockoff)を製造し国際的に販売する人々、というものだろう。しかし、S&BとBunnieが示すように、山寨はそれ以上の存在だ。
山寨ビジネスについて、S&Bの記事は次の3点を特徴としてあげている。
・彼らは素速く動き、地域のニーズと嗜好を理解しそれに応え、地域に密着した製造と流通を確立し維持することで、マーケットシェアを伸ばしている
・迅速で連続的な改良を行う
・将来の開発に対して継続的な投資を行う
Bunnieによると、上記に加えて、彼らはオープンBOM(bills of materials)やその他の設計資料を通じた情報共有を行い、改良のための資金調達でも協力しあっているという。また、彼らのコミュニティはこのポリシーを守るために「自警」し、違反するものを排斥するらしい。
それに似たことが、我々のオープンハードウエアコミュニティでも起きている。SparkFun, Adafruit, Evil Mad Scientist, Arduino, Seeed Studioといったビジネスは、既存の製品やツールを組み合わせ、再パッケージ化することで、より有用なものを生み出している。我々は他者から成果を借用し、それを整理して公開し、改良し、General Public Licenseのようなライセンスを通じて自警し、競争相手やパートナーとなる人々と議論を続けている。製品を少しずつ変更し、比較的小さい生産規模で特定のユーザーに対してテイラーメードの製品を供給する。
山寨とは明らかに異なる点もある。多くの場合、我々は一般消費者向けの最終製品は作らない。また、アメリカと欧州の市場では、彼らは「コピー屋」のレッテルを貼られているが、そうした批判に我々は晒されていない。製造に関するスキルは、たいていの場合、彼らのほうが進んでいて、ベンダーのネットワークもより複雑だ。
こうした2つのコミュニティの比較を通じて、これからのマニュファクチュアリングのとるべき道が見えてくる。
数年前、Clay Shirkyは、彼がsituated softwareと呼ぶソフトウエア開発のアプローチを定義した。ITPの学生は自分たちのコミュニティに特化したたくさんのソフトウエアツールを手早く作成する。それらはうまく機能するが、より大きなコミュニティに対してはスケールしない。Shirkyはスケールすることは重要でないという。手早く、即興的なアプローチで開発でき、当面のニーズに適合すれば良い。situated softwareはエンタープライズ用ではなくローカルなソフトウエアだ。できあがったものがエンタープライズ用と似ていることもあるし、まったくのひどい出来ばえということもある。それでも常にローカルなニーズが反映されている。しばしばsituated softwareはWebマッシュアップとして作られる。
オープンハードウエア企業と山寨が示しているのは、ハードウエアがsituated softwareと同じ流儀で作られるsituated manufacturingだ。当面のニーズに応えているのであれば、できあがったものが、だらしなく、未完成であっても良い。数千ユニットを製造する次の段階で改良すればいいだけだ。
Situated productionには次の要素がなくては機能しない。
・安いツール
レーザーカッター、旋盤、ミリングマシンは個人やグループでも取得できる。これはますます現実になってきている。居間にレーザーカッターや旋盤を置いている同僚が増えた(そして彼らのぜんそくは悪化しつつある)。オープンハードウエアの世界には、まだ欠けているツールがある。たとえば、安い射出成形機がない。ネットを通じて利用できるサービスはあるが、隣の部屋にあれば(深川のように)、とても有利だ。
・ネットを通じた告知、流通、販売
ローカライゼーションは地理的な現象とは限らない。Justin Hallの「インターネットのなかでは誰でも15人を相手になら有名になれる」という言葉が象徴するように、興味やニーズを共有できる人々がネットのなかでなら見つかるはずだ。自分にとっての15人を探し出すことが、situated manufacturingにとって重要だ。
・低コスト小規模な仕入れ
ローカルなユーザーを対象にしたビジネスでは百万単位の生産規模は必要としない。1000個時、あるいは1万個時の価格がリーズナブルでないなら、その部品は使うべきでない。
・安くて速い配送
もちろんこれはFedex, UPSそしてDHLなくしては実現しない。
・オープンな製造情報
ここで示したシナリオでは、製造者は既存の製品やサービスを拡張することで繁栄を図る。それを模造と呼んだり、ニューハイブリッドと呼んだりできる。どちらの場合も、自分のマーケットに適合させるためのリバースエンジニアリングが必要となる。リバースエンジニアリングには時間と金がかかる。パパママショップならば、そうした作業をすべて自分でやる必要がある。友達や外注先が仕事として手伝ってくれるとしたらだいぶ助かるだろう。でも、必要な設計書がタダで手に入るとしたらもっといい。
多国籍企業の世界において「オープンソースマニュファクチュアリング」は呪われた言葉だ。ノキアが携帯電話の設計書をタダで寄付するわけがない。しかし、ネットワーク化されたスモールビジネスの世界では、それがビジネスを刺激する。もし、あなたが自分の製品を他のマーケットに向けて改良するつもりがないとしよう。でも、他の誰かはそれをしたい。彼らがあなたの情報にアクセスすることができるなら、彼らは喜び、公式あるいは非公式に協力を申し出ることで恩返しをしてくれるかもしれない。
Make誌はこうしたビジネスのあり方を広げることに熱心だ。最近、(編集者の)Dale Doughertyはこう言っていた。
デトロイトは仕事がなくて苦しんでいるが、才能あるものがいないわけではない。Bunnieが言ったようなビジネスが興れば、街の産業が変わるかもしれない。モノリシックな自動車会社のかわりに、自宅の一部を工房とショップにしたパパママ自動車会社のネットワークが出現するかもしれない。マイクロファイナンスがその助けになるだろう。この分野のパイオニアであるGrameen、そのアメリカ版であるシカゴのWomens’ Self Employment Project、あるいはkiva.orgやkickstarterのようなピアトゥーピア投資スキームが現実的な再出発の機会になるはずだ。
私はDaleのビジョンがデトロイトで実現してほしい。そのためには、新たな自動車産業の参加者たちが情報をオープンにし、共有することが重要だろう。たぶんオープンソース100マイル/ガロン自動車は一社の力ではなく、小さな会社のネットワークによって作られるだろう。
このシナリオの最大の課題は、スモールカンパニーが世界中で小規模な生産を繰り返すことによる資源の浪費と環境破壊だ。これを防ぐためには、リサイクリングの効率を改善しないといけない。オープンBOMによって製品の内容が把握できれば、解体をしやすくしたり、再利用可能な金属の回収ができるようになる。
また、法的な側面も考える必要がある。山寨メーカーやオープンハードウエアカンパニーはShawn Fanning(Napsterの開発者)を生み出したような込み入った問題に直面しつつある。不確かな品質保証や、知的所有権の侵害が課題となる。
巨費を投じなければ実現できないイノベーションの分野もある(たぶん新薬や旅客機の開発が該当するだろう)。それでも、ローカルレベルでは、ここで述べたようなアプローチがイノベーションを刺激するはずだ。ソフトウエアとサービスの分野では、Webの普及、コードやノウハウの共有、迅速な開発を助けるソフトウエアツールなどのおかげで大いなるイノベーションが実現した。同じことがマニュファクチュアリングの世界では起きないという理由はない。いまはまだそこに至る途上にあるというだけだ。
インターネットがソフトウェアの開発を変えたように、FedExやUPS、DHLがマニュファクチャリングを変えるのでしょうか。面白いですね。
買う側の立場だと、そういう変化をなんとなく納得できる昨今ですが、売る側の立場でも体験したい感じです。
ハードウェアについては、まだ技術的にはキャッチアップできていないですが、企画とか組み込みのソフトウェアなら何かできるかなぁ。ぜひ、ネットのサービスと絡むハードウェアを企画しませう。